2026年7月29日
広告の文字が、以前より読みにくくなった。アプリを開いたものの、何をしようとしていたのか忘れてしまった。買い物へ行く前にメモを作ったのに、肝心の商品を買い忘れた。
一つ一つは、年齢を重ねれば誰にでも起こる、ささいな出来事に見えます。
しかし、「見えにくい」「疲れやすい」「忘れやすい」といった変化は、広告を読む、商品を探す、店舗へ行く、申し込みを完了するといった行動にも影響しているかもしれません。
リビングWebの投票コンテンツ「あなたはどっち?」で、「あなたが衰えを感じる瞬間は?」と聞いたところ、155人が回答。「体の衰え」が56.1%、「頭の衰え」が40.6%、「まだ衰えは感じない」が3.2%でした。
体と頭を合わせると、回答者の96.7%が何らかの衰えを感じていることになります。
62件のコメントから見えてきたのは、単に「年を取った」と感じている生活者の姿ではありません。見づらさや疲れ、物忘れによって、それまで当たり前にできていた行動が少しずつ変わり始めています。
※リビングWeb上で実施した任意投票です。コメントは原文の趣旨を損なわない範囲で、一部を抜粋・要約しています。
表示されていることと、無理なく読めることは同じではない
「体の衰え」を選んだ人からは、疲れやすさ、筋力の低下、つまずき、老眼などについて多くのコメントが寄せられました。
広告や情報発信との関係で、特に気になるのが文字の見えにくさです。
企業側からすれば、文字の大きさはデザインを構成する一要素です。しかし生活者にとっては、内容を理解する前に「読むための負担」が発生しています。
文字が小さい。背景とのコントラストが弱い。画像の中に情報が詰め込まれている。注意事項が長く、重要な条件が埋もれている。
内容に興味がないから読まれないのではなく、読むこと自体に疲れ、途中で離れている可能性もあります。
見やすさを考えるときは、単純に文字を大きくするだけでは足りません。最も伝えたい内容がすぐ分かるか。情報の優先順位が整理されているか。次に何をすればよいか迷わないか。そこまで含めて確認する必要があります。
商品への関心があっても、移動や比較が負担になる
体の衰えは、日常の行動にも表れています。
こうした変化は、商品への関心や購入意向とは別のところで、生活者の行動を止める可能性があります。
店舗へ行く。店内を歩く。商品を比較する。説明を聞く。購入した物を持ち帰る。買い物には、想像以上に多くの体力が必要です。
以前は複数の店舗を回って比較していた人が、最初に訪れた店舗で決めるようになるかもしれません。イベントに興味があっても、移動時間や会場内での待ち時間を考えて、参加を見送るかもしれません。
オンライン予約や配送、待ち時間の短縮、座って相談できる場所の設置などは、単なる利便性の向上ではありません。生活者が行動を諦めないための仕組みともいえます。
広告が印象に残っても、次の行動まで続くとは限らない
「頭の衰え」を選んだ人からは、人名や商品名が出てこない、物を置いた場所を忘れる、何をしようとしていたのか分からなくなるといったコメントが寄せられました。
企業の広告や販促は、生活者の記憶に頼っている部分が少なくありません。
広告を見た後で商品名を検索してもらう。店舗へ行ったときに思い出してもらう。キャンペーンの応募締め切りを覚えておいてもらう。買い物の際にアプリを開き、クーポンを提示してもらう。
広告に接触してから購入するまでの時間が長く、手順が多いほど、途中で目的を忘れたり、面倒に感じたりする可能性は高まります。
広告を見たその場で商品ページへ移動できるか。商品を後で確認できるよう保存できるか。申し込みを途中から再開できるか。締め切り前に通知できるか。
「印象に残る広告を作る」だけではなく、「忘れても行動を続けられる仕組みを作る」ことが必要です。
生活者側の注意や工夫に頼りすぎていないか
デジタル化によって買い物は便利になりました。一方で、生活者が短時間に行わなければならない操作は増えています。
ここで注目したいのは、生活者が自分で工夫し、不便を補っていることです。
スマホショルダーを使う。買い物メモを作る。置き場所を決める。忘れないよう玄関に準備しておく。
生活者の工夫は、現在の商品やサービスにどのような負担があるのかを知る手掛かりになります。
セルフレジでは、アプリを開く、会員証を表示する、クーポンを選ぶ、決済する、商品を袋に入れるという複数の作業が発生します。便利な機能が増える一方で、利用者が覚えておくことや注意することも増えています。
置き忘れを利用者の不注意として片づけるのではなく、操作の途中で何かを忘れやすい構造になっていないか。企業側にも見直せる部分があります。
年齢ではなく、利用時に生じる負担を見る
今回のコメントには、60代、70代、80代だけでなく、30代や40代からの声も含まれていました。
今回の任意投票だけで、何歳から衰えが始まるのかを判断することはできません。
ただし、「見えにくい」「疲れやすい」「忘れやすい」といった負担を、高齢者だけの問題として扱うのは現実的ではなさそうです。
「シニア向けだから文字を大きくする」「若い人向けだから説明を省く」といった年齢だけによる区分では、実際の利用者が抱える負担を捉えきれません。
年齢ではなく、商品やサービスを利用する場面で、どのような負担が生じているのか。その視点で顧客を見る必要があります。
ここからは、今回のコメントを広告や販促の側から考えてみます
文字が表示されていることと、生活者が負担なく読めることは同じではありません。
制作時のパソコン画面だけでなく、実際に配信されるスマートフォンの表示サイズで、文字の大きさ、背景とのコントラスト、行間、情報量を確認します。
生活者に集中して読んでもらうのではなく、集中しなくても重要な内容が伝わる設計が必要です。
商品名を覚えて後で検索してもらう。申し込み締め切りを記憶してもらう。店頭で対象商品を思い出してもらう。
こうした生活者の記憶に頼った導線には、途中で行動が途切れる余地があります。
広告から商品ページへ直接移動できる導線や、入力内容の保存、カートの保持、リマインド通知など、忘れても再開できる仕組みを整えることが重要です。
スマホショルダーを使う。買い物メモを作る。眼鏡を外して文字を見る。外出時の用事を減らす。
生活者が日常的に行っている工夫には、商品やサービスの改善点が隠れています。
「何ができないか」だけでなく、「普段、どのように補っているか」を聞くことで、企業側が見落としている小さな不便が見えてきます。
今回の投票では、回答者155人のうち96.7%が、体か頭のいずれかに衰えを感じていました。
ただ、コメントから見えてきたのは、年齢そのものではありません。
文字を見るために眼鏡を外す。忘れないようにメモを作る。スマートフォンを置き忘れないようショルダーを使う。一度に用事を済ませず、行動量を調整する。
生活者は、自分なりの方法で日常の不便を補っています。
生活者に、よく見て、覚えて、間違えずに操作してもらうことを前提にしていないでしょうか。
今回の投票は、衰えと購買行動の関係を直接調査したものではありません。そのため、見えにくさや物忘れが、購入や申し込みの減少につながると断定することはできません。
それでも、広告を読む、商品を探す、店舗へ行く、申し込むという一連の行動には、生活者の視力、体力、記憶力を前提にした場面が数多くあります。
見やすく、覚えておく必要がなく、迷わず進めるようにする。
その視点は、シニア向けの商品やサービスだけに必要なものではありません。幅広い生活者との接点を見直すうえで、基本となる考え方ではないでしょうか。
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